10年ぶりくらいに読み返しました。
梶井基次郎の『檸檬』。
書店に入り、本を積み上げ、
その上にそっと爆弾に見立てた檸檬を置く男。
『見わたすと、その檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調を
ひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえっていた。
私は埃っぽい丸善の中の空気が、
その檸檬の周囲だけ変に緊張しているような気がした。
私はしばらくそれを眺めていた。
不意に第二のアイディアが起こった。
その奇妙なたくらみはむしろ私をぎょっとさせた。
――それをそのままにしておいて私は、なに喰わぬ顔をして外へ出る。――
私は変にくすぐったい気持がした。
「出て行こうかなあ。そうだ出て行こう」
そして私はすたすた出て行った。
変にくすぐったい気持が街の上の私を微笑ませた。
丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、
もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったら
どんなにおもしろいだろう。』
日常の風景を、
檸檬の爆弾が吹き飛ばしてしまうことを想像し、
一人ひそかにほくそ笑む、、、。
なんとセクシーな主人公なんでしょう。
美しすぎる。